今回のおはなし




 カニくんとおひさまのお話です。

    

           ♪演奏♪  HELLO DIGITAL CLUB

昭和53年8月、あの夏も今年のようにとても暑い夏でした。

それはある浜辺での出来事、ぎらぎら照りつけるおひさまに向かってかにくんが呼び掛けます。

「お−い、おひさま!ちょっと相談したいことがあるんだけど聞いてくれるかい?
今度、何か楽器を演奏してみようと思うんだけど、どんな楽器がいいのかな。
おひさまならなんでも詳しいんだろ、教えてくれよ。頼むよ!」


    

           
♪演奏♪  『T-SQUARE MEDLEY』

「今の楽器はクラリネットという楽器よ、どうだった?」

とおひさまが聞くと、かにくんがこう答えました。

「うん、とってもよかったよ。
木管楽器としては豊かな音量を持っていて、その上表現力も幅広く、
広い音域の演奏が可能だということはわかったけれど、今いちピンとこないなあ」


    

           
♪演奏♪  『GIRL FRIENDS』

 「今の楽器はアルトサックスという楽器よ、どうだった?」


とおひさまが聞くと、かにくんがこう答えました。

「うん、とってもよかったよ。
高音と低音の音質の変化が他の木管楽器に比べて少ないという特徴があって
音色の統一された楽器というのも魅力だけど、今いちピンとこないなあ」


    

           
♪演奏♪  『PLAY FOR YOU』

 「今の楽器はホルンという楽器よ、どうだった?」

とおひさまが聞くと、かにくんがこう答えました。

「うん、とってもよかったよ。
金管楽器の中でいちばん柔らかな音をもっているから木管五重奏などで大事な役割を
果たしているだけでなく、時には金管楽器の特性を発揮して独特な鋭い音も出せる楽器
というのも魅力だけど、今いちピンとこないなあ」


    

           
♪演奏♪  『追憶』

 「今の楽器はトロンボ−ンという楽器よ、どうだった?」


とおひさまが聞くと、かにくんがこう答えました。

「うん、とってもよかったよ。
スライドを動かして音を変えていくからすばやい音の変化には多少困難を感じるけど、
そのかわり音の移り変わりのニュアンスに、他の金管楽器にはみられない独特の個性がある楽器と
いうのも魅力だけど、今いちピンとこないなあ。
それに一人で楽器を演奏するのってなんかとてもさみしそうだよ」


    

           
♪演奏♪  『A FEEL DEEP INSIDE』

「今のは2本のトロンボ−ンの演奏よ、どうだった?」


とおひさまが聞くと、かにくんがこう答えました。

「うん、とってもよかったよ。
でも2本のトロンボ−ンだと、トロンボ−ンの魅力のひとつであるハ−モニ−の美しさが
表れないよねえ。
今度は3本のトロンボ−の演奏が聞いてみたいなあ」


    

           
♪演奏♪  『TROMBONANZA』

 「今のは3本のトロンボ−ンの演奏よ、どうだった?」


とおひさまが聞くと、かにくんがこう答えました。

「うん、とってもよかったよ。
でも何だかトロンボ−ンがとても忙しそうな曲だったね。
ハ−モニ−の美しさを楽しむひまもなかったで感じだね。
それに3本のテナ−バストロンボ−ンだけだと、今いち厚みに欠けるねえ。
今度はバストロンボ−ンも入った曲が聞いてみたいな」


    

           
♪演奏♪  『WACKY DUST』

「今のは4本のトロンボ−ンの演奏よ、どうだった?」


とおひさまが聞くと、かにくんがこう答えました。

「うん、とってもよかったよ。でも何だか物足りないなあ。
じゃあ今度は76本のトロンボ−ンが聞いてみたいなあ、というのは冗談だけど・・・
せっかく何曲も演奏してくれたトロンボ−ンの人には悪いけど、ぼくはハ−モニ−を
美しく奏でるよりもかっこいいメロディ−を演奏する楽器がいいな」


    

           
♪演奏♪  『主よ人の望みの喜びよ』

「今の楽器はトランペットという楽器よ、どうだった?」


とおひさまが聞くと、かにくんがこう答えました


「うん、とってもよかったよ。
やっぱりぼくは美しいメロディ−を演奏する楽器がいいなあ。
今度はちがう楽器で美しいメロディ−を聞かせておくれよ」


    


「ねえ、かにくん。ひとつ聞きたいことがあるんだけれど・・・」
とおひさまが言いました。
「なんでも聞いてよ」とかにくんが答えました。

「どうして楽器を初めてみたいと思ったの?」

「ぼく、楽器を演奏したことはないけど、子供の頃から歌がとても好きなんだ。
歌をうたっていると体の中から勇気が湧いてくるようだよ。
昔はよくおにぎりを持って山にピクニックに出掛けたものだよ、楽しかったなあ」 


「ねえかにくん、そのピクニックに出掛けたときにおさるさんにおにぎりをとられなかった?」

「えっ、どうしてそんなことを知っているの?!」


           ♪演奏♪  『ピクニック・メドレー』

    

           
♪演奏♪  『フォークソング・メドレー』

「かにくんは本当に音楽が好きなのね」

「うん、ぼくは音楽がとても好きなんだ。でも音楽って不思議な力があるよね。
だって音楽を聞いていると元気になったり、悲しくなったり、やさしい気持ちになったり
音楽を聞いているだけで、そんな素敵な気持ちになれるんだから、自分でいろいろな曲を
楽器で演奏したらどんな気持ちになるんだろう・・・きっと楽しいんだろうな。
あ−ぼくも、早く楽器演奏が上手にできるようになりたいよ。
素敵なメロディ−を気持ちよく吹いてみたいなあ」


    

           
♪演奏♪  『カーペンターズ・メドレー』

「ねえ、かにくん。やりたい楽器は決まったの」

「今、それを悩んでいるんだ。一番かっこよくメロディ−が吹ける楽器って何だろう?」

「ねえ、かにくん。あなたの耳にはメロディ−しか聞こえていないのかしら?
もっともっと大切な音が聞こえないかしら?」

「いきなりそんなこと言われたって・・・ ぼく、おひさまの言っていること、よくわからないよ」

「そうねえ、今のあなたでは、まだ無理かもしれないわね・・・・」

「ねえおひさま、今日はいろいろな楽器を紹介してくれてありがとう。
いつかきっと演奏会を開くから聞きにきてね。さようなら、おひさま!」

「ありがとう、楽しみにしているわ。さようなら、かにくん!」

「さようなら、おひさま!」

   昭和53年8月、ある浜辺での出来事、とても暑い夏でした。


    

           
♪演奏♪  『ONE BOY』  曲中

平成8年8月、今年の夏もとても暑い

おひさまがつぶやいています。

「18年前のかにくん、あのメロディ−、メロディ−って騒いでいたかにくん・・・
あのかにくんは結局、何の楽器を選んだのかしら?
もしあの時に楽器演奏を始めていたとしても、今まで18年間も続けているかしら?
かにくん、これからも楽器の演奏を続けてね。続けることが大切なのよ。
私はあなたからの演奏会の招待状が来るのを待っているわ。これからも、ずっと、ずっと。」



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